大判例

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静岡地方裁判所富士支部 昭和54年(ワ)141号 判決

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  静岡地方裁判所富士支部昭和五三年(ケ)第七〇号不動産任意競売事件につき、同裁判所の作成した配当表を変更し、原告に金七、二四五、一一四円、被告に金五九七、九三九円を各配当する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  債権者(被告)大村あき、債務者藤原食品株式会社、所有者藤原誠男間の静岡地方裁判所富士支部昭和五三年(ケ)第七〇号不動産任意競売事件につき、同裁判所は昭和五四年一一月二〇日左記のとおり配当表を作成した。

配当金 一二、一六五、〇八〇円

〈省略〉

2  訴外藤原食品株式会社(以下単に藤原食品という)は、昭和五一年六月一八日、訴外中部相互銀行との間で相互銀行取引約定を締結し、同日、被告、訴外藤原誠男、同藤原勝昭及び同藤原誠昭は主たる債務者藤原食品のために連帯保証人となつた。

また、被告は右同日、被告所有の別紙第一物件目録記載の土地に、藤原誠男は同年八月三一日、同人所有の別紙第二物件目録記載の土地に、それぞれ債務者藤原食品のため債権者中部相互銀行に対し、極度額金五〇〇〇万円の根抵当権を設定した。

中部相互銀行は訴外静岡県信用保証協会の信用保証を付させて、昭和五一年九月二日、藤原食品に対し金二〇〇〇万円を貸付けた。

3  静岡県信用保証協会は、昭和五二年六月二八日、債務者藤原食品のため、同社の中部相互銀行に対する確定債務金一〇〇八万一二〇円を代位弁済し、よつて、中部相互銀行の被告及び藤原誠男に対する根抵当権の移転を受けた。他方、藤原誠男は同年八月二六日同人所有の別紙第二物件目録記載の土地につき原告に対し、債権額を金一三六三万二三五四円とする抵当権を設定した。

4  被告は、昭和五三年六月二日、債務者藤原食品のため、同社の静岡県信用保証協会に対する求償債務金一〇六〇万円を代位弁済し、よつて、同協会の藤原誠男に対する根抵当権の移転を受けた。

5  被告は、債務者藤原食品に対して有する求償債権金一〇六〇万円全額をもつて請求債権とし、藤原誠男に対する根抵当権の実行を申立て(御庁昭和五三年(ケ)第七〇号)右全額について債権計算書を提出した。

6  しかしながら、被告が藤原誠男の根抵当権について代位行使できる範囲は、金一〇六〇万円全額ではなく、以下に述べる理由により金五五六、九六八円だけ(元金―遅延損害金四〇、九七一円合計金五九七、九三九円)である。

7  被告は、債務者藤原食品の連帯保証人兼物上保証人、藤原誠男も連帯保証人兼物上保証人、藤原勝昭及び藤原誠昭はいずれも連帯保証人である。

8  共同保証人の一人が弁済した場合、他の共同保証人に対し、その各自の負担部分について求償権を有するが、保証人と物上保証人がある場合、その頭数に応じてしか債権者に代位せず、そのとき物上保証人が数人あれば、保証人の負担部分を除き残額について各不動産の価格に応じてしか代位できない。(民法第五〇一条四号、五号)

9  本件の被告あるいは藤原誠男のように連帯保証人と物上保証人を兼ねる者がある場合には、二つの資格が独立して存在するような取り扱いをなすべきである。すると、債務者藤原食品のために連帯保証人が四名、物上保証人が二名であり、合計頭数は六名となる。

被告が藤原誠男の根抵当権を代位行使できる範囲

(一) 被告が弁済した金一〇六〇万円から連帯保証人四名の負担部分合計金七、〇六六、六六六円(金一〇六〇万円×〈省略〉)を差引くと残額は金三、五三三、三三四円となる。

(二) 残額金三、五三三、三三四円を物上保証人である被告の抵当不動産の価格(昭和五四年度評価額合計金二、五三〇、八〇〇円)及び藤原誠男の抵当不動産の価格(同金四七三、五九〇円)に応じて分けると、被告金二、九七六、三六五円、藤原誠男金五五六、九六八円となる。

従つて、被告は藤原誠男の根抵当権については金五五六、九六八円(元金)しか代位行使できない。これに、昭和五三年六月三日以降昭和五四年一一月二一日まで年五分の割合による遅延損害金四〇、九七一円を加えると合計金五九七、九三九円が被告に配当されるべき金額である。

10  裁判所の作成した配当表

裁判所は、頭数を四名と数えて、単純に金一〇六〇万円を四等分し、藤原誠男の根抵当権について金二六五万円(元金)の代位行使ができるものとしているが、これは物上保証人の存在すなわち抵当不動産の価格を考慮しないもので、妥当ではない。共同担保者のうち、より重い負担を引き受けた者は、より重い出捐を忍ぶべしとすることが公平である。

11  よつて被告に対する配当額を金二、八四四、九三八円から金五九七、九三九円に、原告に対する配当額を金四、九九八、一一五円から金七、二四五、一一四円にそれぞれ変更する旨の判決を求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1ないし5及び7は認める。その余は争う。

三  原告の主張

1  保証人と物上保証人の資格を兼ねた者がいる場合の代位関係についての判例と考え方

(一) 本件に関連した判例として、大判昭九・一一・二四民集一三―二一五三がある。

右判例は、まず結論として次のように述べている。「連帯保証人中自己所有の不動産を以て主債務者の債務の抵当に供した者が主債務者のため弁済をなしたるときは、他の連帯保証人に対し、その半額につき債権者に代位する。」そして、その理由として「連帯保証人と物上保証人との二資格を兼ぬべきことはもちろんなるも、その担保するところは唯一の主たる債務者の債務にして全く同一の目的のために連帯保証債務を負担し、かつ物上担保を供したるものに外ならざるが故に、代位弁済の場合における他の連帯保証人との関係においては、単一資格のもとにその間の頭数に応じて債権者に代位するものとな」すべきだという。

(二) 右判例は、二重資格者一名、連帯保証人一名で、このうち二重資格者が弁済したという事案である。したがつて本件のように二重資格者が複数存在する場合(即ち、二重資格者が複数存在することからくる諸問題)を予想していない。又、右判例は「単一資格」といつているが、連帯保証人としての単一資格なのか物上保証人としてのそれなのかの「選択」に関してはふれていない。右判例の事案では、二重資格者がどちらの資格を選択しても、頭数が二であることには変わりはなく、したがつて「半額」につき代位するという結論に変わりはないからである。

したがつて、本件についてまで、右判例が先例としてカヴアーしているとは考えられない。

2  単一資格説に対する批判

単一資格説(右判例も事案は異なるが一応この立場に立つと推定される)は二重資格者が何名いても、又、抵当不動産価格にどのような差があろうとも、単純に人の数をもつて民法五〇一条五号にいう「頭数」とする(資格兼併者二名、不兼併者二名の場合、四つの「頭数」となる)ものであるが、これは、以下に詳細するように民法五〇一条三号、四号、五号但書の趣旨にも反し、いくつかの疑問をいだかせる。

(一) 単なる連帯保証人(単一資格者)も二重資格者も、主債務の担保を同一目的とすることは前記判例のいう通りであるが、単一資格者と二重資格者とでは目的に対するかかわり方、負担のし方に程度・濃淡の差がある。

共同担保者のうち、資格を兼ねたり、あるいはより価値の高い不動産を抵当に供する等、より重い負担を引き受けた者は、他の者に対しても、より重い出捐を忍ぶのが公平である。他の者もそういう期待利益を有している。(我妻民法講義Ⅳ二六一頁)民法五〇一条三号、四号、五号はまさに右趣旨を反映した条項である。

単一資格説は、各人が引受けたはずの負担の程度を無視するもので妥当でない。

(二) 本件は、連帯保証人兼物上保証人二名(甲、乙)、連帯保証人二名(丙、丁)の事案であるが、このように二重資格者が複数ある場合には単一資格説では不都合を生ずる。

即ち、単一資格説によると、右において甲が弁済した場合の代位関係は、

(1) 四名の人、即ち四個の「頭数(民法五〇一条五号)」と数えたうえ、甲は乙、丙、丁に対し、均等割の各四分の一ずつ代位できる。

とするか、又は、

(2) 四名の人、即ち四個の「頭数」と数えたうえ、単なる連帯保証人丙、丁に対しては各四分の一、物上保証人を兼ねる甲、乙間においては四分の二を抵当不動産の価格に応じて分けた分乙に代位できる。

とするか、

の二通りしか考えられない。

しかし、(1)では物上保証人の存在・抵当不動産の価格を無視することになり、「物上保証人の場合には不動産価格の割合に応じて負担する」という条文(五〇一条五号但書)に反し、妥当でない。

また(2)では、物上保証人を兼ねる乙のほうが、単なる連帯保証人丙、丁よりも代位される金額が少なくなる場合があるという不合理がある。(前例で二重資格者甲の抵当不動産の価格が四〇〇万円、資格兼併者乙のそれが一〇〇万円で、甲が一〇〇〇万円弁済した場合、連帯保証人丙、丁は各二五〇万円代位されるのに、乙は一〇〇万円しか代位されない計算となる。)

(三) 資格の選択に関しても問題が生ずる。

単一資格者が弁済した場合、弁済者自身については資格の選択の問題は生じない。しかし他の二重資格者に対してはどのように代位できるのであろうか。

(1) 弁済者が他の二重資格者の資格につき、選択権があるとすると、その選択権の根拠が疑問となる。

(2) あるいは二重資格者自身に選択権があるというのであろうか。いずれにせよ当然自己に有利な資格を選択することになるから、具体的事案ごとに代位される金額は区々の結果になつてしまう。

これは、二重資格者が二名以上いて、その二重資格者のうちの一名が弁済した場合も同様に生じる問題である。即ち民法五〇一条五号の「頭数」を単純に人数で数える以上、例えば本件のように、物上保証人を兼ねる者が二名(甲、乙)で、そのうちの一名(甲)が弁済して、甲が連帯保証人の資格を選択できるとすれば、乙がどちらの資格で代位されるにせよ、代位金額の点では同一となる(連帯保証人三名、物上保証人一名の四名又は連帯保証人四名となり、総額の四分の一ずつが代位金額となる。)が、もし甲が物上保証人の資格を選択すれば、乙の資格をどちらにするかで代位金額が異なつてくる。(乙の資格につき、連帯保証を選択すれば、連帯保証三名、物上保証一名で右と同様四分の一ずつの代位金額となる。これに対し、乙の資格につき、物上保証を選択すれば、連帯保証二名、物上保証二名となり、連帯保証人に対しては四分の一の代位金額、他の物上保証人に対しては価格に応じた代位金額となつてしまう。しかも後者の場合には、前記2の(二)に対する批判もあてはまることになる。)殊に、二重資格者が三名以上いる場合には、必然的に、他者の資格の選択の問題が生ずる。

3  二重資格説(我妻説)

単一資格説では、2に述べたような不都合が生じ、到底妥当な理論とは言い難い。これに対し、資格の数を民法五〇一条五号の「頭数」とする(したがつて二重資格者の頭数は二となる)考え方がある。これは、二重資格者が何人いるか、弁済者が二重資格者か単一資格者か等によつて代位金額が異ならず、しかも、2の(一)で述べた負担の程度に応じた公平な代位を実現するものである。この理論は、資格を兼ねる場合のあらゆる事案に統一的に矛盾なく適用でき、しかも民法五〇一条五号の、保証人は平等に、物上保証人は財産の価格に応じてという趣旨に合致している。

第三  証拠(省略)

第一物件目録

(一) 富士市中丸字中の浦三九二番二

田        六六四平方メートル

(二) 同所三九二番三

田         二一平方メートル

第二物件目録

(一) 富士宮市北山字横道一二一一番

畑       一一四七平方メートル

(二) 同所一二三九番一

畑        五五八平方メートル

(三) 同所一二三九番二

畑        二五七平方メートル

(四) 富士宮市北山字横道一二三九番三

井溝        四六平方メートル

(五) 同所一二三九番四

原野      六・六一平方メートル

(六) 同所一二四八番

田        四一三平方メートル

(七) 富士宮市北山字峯四七八三番四八一八番(合併)

畑        六二四平方メートル

(八) 同所四七八四番一

畑        七九三平方メートル

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